いきなりですが、あなたが就職活動を経て、ある企業に入ったと想像してみてください。研修も終わり、あなたの仕事が始まりました。
では、入社後のシナリオはどう描いていきますか?
終身雇用の維持が難しくなっている中で、いくつかの企業を渡るのが当たり前の時代になると言われています。では、転職前にもう一度学びを深めるという選択肢はどうでしょうか。
このところ、社会人の学び直しを推進する機会として、「リカレント教育」が注目されています。今回は、オンラインを利用したリカレント教育の広まりや今後の働き方の変化、育児を経て職場に戻る女性を支援するプログラムについて注目してみました。
Contents
リカレント教育×オンラインのプラットフォーム
変化の激しい時代を生きる社会人のための教育
これまでは、20歳前後までを学びの期間とし、そこから定年まで働き続けるというスタイルが当たり前でした。しかし、テクノロジーの進歩はあまりに早いため、従来の学びの期間である20歳前後までを過ぎても学び続けなければ、自らをアップデートできない時代となっています。
そんな中、就職した後でも何らかのスキルを身につける「リカレント教育」が注目されるようになってきました。とはいえ、社会人が仕事をしながら学ぶことは容易ではありません。
そこで注目されているのが、オンラインで講座を提供している教育プラットフォームです。
(もちろん、毎日様々な分野でセミナーなどが数多く実施されており、そうした機会で積極的に吸収されている方も多いと思います。ここでは、新しいアップデートの仕方の一つとして、リカレント教育の話題を取り上げています。)
コロナ禍でオンラインの利用が拡大
特に、今回の新型コロナウイルスの拡大は、オンラインを通じた教育の幅を広げました。コーセラ(世界の大学と提携し、講座をオンラインで提供している)やカーンアカデミー(高水準の教育の無償提供を理念に掲げるオンライン教育サービス)といったウェブ系教育サービスが伸び、より多くの人がオンライン上で学ぶようになったと考えられます。
実際、コーセラは今年の3月中旬から5月中旬までで学生や社会人を含めて新たに1000万人の新規ユーザーを獲得しており、これは前年比で7倍のペースだということです。このように、オンラインの利用が拡大したからこそ、社会人の学びの機会が広がったとも言えるでしょう。
人生百年時代。働き方にも変化
そもそも人々の働き方時代が変わるという考え方もあります。これには、平均寿命が延びることや、サービス産業の成長が考えられます。
平均寿命の伸びと「3ステージの人生」の変化
人材論・組織論の権威として知られるロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は、「人生百年時代」というフレーズの提唱者として知られています。寿命が伸びると、退職してからの時間が長くなります。すると、誰しもが20歳前後まで学び、定年まで働き、引退生活を送るという3ステージの生活を送るとは限らなくなるのです。なぜなら、人生が長くなる分、自分の好きなことを探求できる時間が増えるからです。したがって、大学を出たらすぐに就職するとは限らなくなるし、働いている途中で大学に戻る人も出てくると彼女は言います。
製造業からサービス業への移り変わりに伴う変化
また、先進国ではサービス業が主要産業となっています。これまで、日本では多くの企業が製造業モデルの働き方をしていたため、長時間労働が主流でした。これに加え、終身雇用であるため、働き始めると定年まで働き続けるのが当たり前でした。これでは社会人が学ぶ時間をまとめて取ることはなかなかできません。
日本人が長時間労働なのは、家庭内における男女の役割分担も影響しています。日本を除くG7各国において、男性は一日の130~150分を家事・育児にあてていますが、日本は約40分しかありません。
先進国の主要産業は製造業からサービス業に移っており、サービス業においては長時間労働ではなく、おもしろいアイデアを出すことが求められています。男性の労働時間を減らすとともに、その時間を家事・育児や学びの時間に回せば、生産性が上がるとも言われています。
育児を経た女性を支援するプログラムも
では、女性の働き方についてはどうでしょうか。
今の日本は、女性にとって結婚が不利な社会だとリンダ・グラットン教授は言います。
働いている時に出産を迎える女性にとって、終身雇用制は馴染みません。そんな中、育児休暇中の女性を支援する取り組みが広がっています。ここでは、そうした取り組みの一つを紹介します。
ダイキン工業株式会社と大阪大学が女性を支援するプログラムを開始
ダイキン工業株式会社と大阪大学は、2019年10月より協同で「育休中キャリアアップ支援プログラム」を開始しました。
このプログラムは、ダイキン工業の社員の方が大阪大学の人間科学部、経済学部および工学研究科(ビジネスエンジニアリング専攻) の授業科目の中から自らのキャリアアップに資するものを選択し、大阪大学の一時預かり保育室に子供を預けて履修することができるというものです。
実際にこのプログラムに取り組まれたダイキン工業の氏野さんにお話を伺ってみたところ、「教授の方が丁寧にサポートしてくれました。出産直前で病院の近くにいないといけないこともあり、授業に参加できない日もあったんです。ですが、気にしなくていいと声をかえてくださったり、その日のプリントを渡してくださったりと、本当に寄り添っていただいた」とのことでした。
また、このプログラムを他の社員の方にも進めたいかどうかについて、「教授の方や人事の方のサポートが厚かったので、迷っているけど学びたいと思っている人には背中を押してあげたいですね。でもやっぱり小さい赤ちゃんを連れて外に出る、というのは不安が伴うものなので、オンラインとオフラインの組み合わせがあると更に便利かも。」とおっしゃってました。新型コロナウイルスの拡大の中、特に人文系の科目はオンラインでの授業が増えているため、育児休暇中に学ぶ女性にはメリットになるかもしれません。
個人的に、「赤ちゃんを連れて外に出ることは不安」という意見にハッとさせられました。こうして女性のキャリアにプラスになるようなプログラムであっても、本人にとってはそれなりに勇気がいるということに気づかされたからです。女性を支援するものであっても、懸念点をしっかり解消できるプログラムであることが欠かせないんだなと感じました。
このように、男性の働き方も女性の働き方も変わるだろうという流れのなか、オンラインを駆使した教育プログラムが広まりそうです。みなさんも、将来のシナリオを考えるときには、「学び」の時間も挟んでみてはいかがでしょうか。
参考
安宅和人.シン・ニホン.NEWS PICS PUBLISHING.2020年
大野和基(編).コロナ後の世界.文春新書.2020年
出口治明.「教える」ということ.角川書店.2020年
松尾豊・塩野誠.「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」.角川書店.2014年
朝日新聞.2020年8月9日号
日本経済新聞.2020年7月16日号
https://forbesjapan.com/articles/detail/35073(2020年9月3日最終閲覧)
https://www.daikin.co.jp/press/2019/20190919/(2020年9月7日最終閲覧)