人間科学研究科附属の「未来共創センター」と「大阪大学未来ソリューションイニシアティブ」が共同開催する、「ふくしまスタディーツアー2021~原子力災害後を共に生きる~」。この記事では、昨年の参加者である筆者がスタディーツアーの内容を紹介し、その前後で広く開催される学習会についても案内します。
なかなか報道されない、ふくしまの「今」とは?そこで生きる人たちの声とは…?ふくしまに関心がある人はもちろん、「最近、原発のこと耳にしていないな」という人にも読んでほしい記事です。
ふくしまスタディツアーとは…?
「ふくしまスタディツアー2021~原子力災害後を共に生きる~」は、福島第⼀原発事故の被災地の「今」を知り、私たちは原子力災害後をどのように生きていくべきか考える機会として企画されています。
東日本大震災から10年が経ち、まちの復興や産業の再生が進んできた一方で、福島第一原発事故の中心地である、福島県の避難者数は2021年8月時点で約3.5万人となっています。避難指示が解除された地域の居住率はまだ低く、農業や漁業の風評被害も続いています。しかしながら、原子力災害の被災地や避難者について報道されることは少なくなり、原子力災害の風化も懸念されています。このような状況下で、現地の状況を見て学び、多様な被災者の話を聞く機会となるのが、この「ふくしまスタディーツアー」です。

切り捨ててきた声に向き合う3日間
私は昨年実施された、「ふくしまスタディーツアー2020~原子力災害後を共に生きる~現地訪問」参加者として被災地を訪問してきました。被災地では、東日本大震災・原子力災害伝承館などを訪れ、被災地で生活をしている多様な方の話を聞きました。
ここで、印象深かったことをいくつか、写真と共に紹介します。
ふくしまへ行く前、インターネットや動画サイトなどで調べると、福島県の食べ物の安全性や、どんどん復興していく様子などをアピールする記事が出てきました。被災地へ実際行ってみたところ、綺麗な街並み、元気に暮らす人々など、一見復興が完了したような光景が広がっていました。

一方で、なかなか報道されない事実も突き付けられました。私が被災地を訪問したのは、2020年11月19日~21日の3日間。2020年3月に、9年ぶりにJR常磐線が全線開通したということで、双葉駅周辺を訪ねました。駅は綺麗になっていましたが、

震災前は栄えていたという駅周辺はまだまだ工事中で、

がらんとした風景が広がっていました。

双葉町にある小学校には、避難当時の小学生の荷物がそのまま置いてありました。


「先月(2020年10月)から入れるようになって、荷物を取りに来る人もいる」と双葉町役場の方からお聞きしました。コロナ禍で出入口に置いてあったアルコール消毒液と、時が止まったような教室内の様子がミスマッチだと感じたことを覚えています。
東日本大震災・原子力災害伝承館の上から見ると、周辺のがれきはほとんど除去され、行政機関による整備がすすんでいました。


富岡町の帰還困難区域。柵が立てられ、中には入れないようになっていました。

常磐線開通に合わせて夜ノ森駅前と道路の立ち入り禁止は解除されていましたが、道路の両側に立ち並ぶ家屋には未だ入ることが出来ませんでした。夜ノ森駅へ通じる道を作るため、新たに柵を立て直されたということで、語り部さんが「このあたりに住んでいる人はきついだろう」と言っておられました。
駅舎も工事中でしたが、以前の愛着ある駅舎を残すことがかなわなかった辛さや口惜しさもお聞きしました。


以前は線路の両側で咲き誇っていたというつつじの花は、放射線除去のためにすべて抜かれそうになったそうです。住民の強い願いがあって、上部だけ刈って根っこは残っているとのこと。富岡町の方々が、制限や制約の中でいろいろなものと闘っている象徴のように思えました。
ここまで目に見える事柄について書きましたが、強く記憶に残ったのは、やはり様々な人たちの存在でした。安全性の確保に奔走する人たち、街を元気にしようと頑張っている役所職員さん…頑張っておられる方ばかりでした。同時に、周りの方が甲状腺がんで亡くなったという語り部さんや、自分で調査をしたら子どもさんが内部被爆をしていて毎日怖い思いをしているという方にお会いしました。これらは正反対にも思われるような事柄ですが、どちらも事実であり、その事実の中で生きている人たちがいました。
初めて後者の語りを聞いた時、「目の前にいる人は何を根拠に語っているのだろう」と、私は語りを疑ってしまいました。これは、調べたら簡単に出てくる情報や、権威があるとされる発信だけをこれまで私は信じていて、それ以上の情報や思いを受け止めることができなかったからです。物事は多面的であり、切り捨てられていく小さな声の存在を強く感じました。
また、「双葉で子どもを育てたいか」という問いかけをされ、どきりとしたことも記憶しています。放射線除去が進んできていましたが、落ち葉の溜まる場所など、引き続き様子を見ていく必要があると聞いた後のことでした。

私自身は双葉町に住んでみたいと思いましたが、何を触るかわからない子どもをここで育てるのは、正直怖いと思ってしまいました。「風評被害は良くない。人がまた戻ったらいい」と私は考えてきて、その気持ちは変わらないものの、「人」はどこかの誰かを想定していて、他人事として捉えていることを言い当てられた気がしました。
私は関西電力から毎日電気を買っているのですが、「大阪だったら福井に原発ありますよね」と問われ、初めてそれを意識しました。私は誰かに、「万が一の時原発事故に遭え」と暗に要求しながら生きているのだと自覚し、大阪で自分の部屋の電気をつけたとき、怖くなりました。ある語り部さんが、「一度被災地を訪れてほしい。その様子を見て、覚悟を決めて、原発を推進するも廃炉にするも決めてほしい」と言っていました。私は覚悟を決められないまま、今日も電気を買い続けています。他人事で居続けられる特権を感じながら、その特権をどうしたら良いのかわからない日々です。
ふくしまを知る、未来共創センター主催イベント
いずれも自分の目で見て、耳で聞いてみないとわからないことばかりだと思います。
「でも、今年のスタディツアーの募集はもう締め切られてるし…」と思ったあなた、スタディツアーの前後で開催される、学習会や報告会には今からでも参加できます!
映画上映会「福島は語る」
日時:2021年10月18日(月)17:30~20:30
場所:人間科学研究科東館2階207
詳細は、KOANの掲示板「その他」、お知らせ「映画上映会のお知らせ『福島は語る』」を確認してください。
申し込み:https://forms.gle/bdxfHx1CgtMqUnAY8
災害と福祉のまちづくり連続セミナー【第3回】 原子力災害とマイノリティ
日時:2021年10月23日(土)14:00~16:30
開催方法:オンラインzoom
詳細:http://respect.hus.osaka-u.ac.jp/static/contents/seminar/seminar20211023.html
申し込み:https://eventregist.com/e/saigai3
「福島の今」を知る学習会
日時:2021年10月29日(金)18:00-19:30
場所:先端医療研究棟(CoMIT)演習室1.2+オンライン
詳細は後日、KOAN,HP(https://www.hus.osaka-u.ac.jp/mirai-kyoso/)
で通知されます。
報告会(公開)
日時:2021年11月29日(月)
2021年ふくしまスタディツアーに参加した学生から、報告を聞くことができます。詳細等はまだ告知されていませんが、日時は以下から確認できます。
http://respect.hus.osaka-u.ac.jp/static/contents/seminar/seminar20211007.html
ぜひ1度ふくしまへ!
最後は、ぜひふくしまを訪れてほしいという気持ちを込めて、楽しい写真で締めたいと思います。1枚目はFUTABA Art District, 2枚目はアクアマリンふくしまでの昼食です。(どんぶりの具材が少しずれているのは、『おいしそう!いただきます!』とお箸でつまんだ後に写真のことを思い出したからです…笑)海鮮はおいしかったし、温泉も気持ちよかったし、とても良いところでした!
ふくしまの魅力に惹かれる人、そして、そこからもう少し深く知りたいと思う人が増えますように。

