文系でも理系でも入れる、人間のことを科学する…。いろいろ噂は飛び交うけれど、本当のところ何をやっているのかわからないと言われがちな、人間科学部(人科)。
「結局、何するところなん?」
「国際人間科学部(神戸大)や、総合人間学部(京都大)との違いは?」
など、もやもやしている人も多いのではないでしょうか。この記事では、人科4回生のライターが、人科での経験や独自調査を基にもやもや解消に乗り出します!
Contents
人科のキャンパスライフってどんな感じ?
2021年度の入学定員は137人。おおよそ、女性:男性=3:2の比率となっています。
学部内でのイベントが多く、仲が良いのが特徴だと思います。入学後に1泊2日のキャンプが計画され、多くの新入生が参加します。ここで、レクリエーションやカレー作りなどを楽しみ、友達を作ることができます 。さらに、7月には人科祭を開催します。多くの人科1年生が浴衣を着て、模擬店を出したり、ステージ発表をしたりします。人科祭は豊中キャンパスで開催され、他の学部の人も遊びに来ます。

人科祭2018のTwitterアカウントより

人科祭2018のTwitterアカウントより
※イベントの様子はコロナ禍以前のものです。イベントはいずれも任意参加です。
学修面で言うと、2年目の夏までは、豊中キャンパスで授業を受けます。他学部の人と一緒に一般教養の授業を受けたり、人間科学の概論を学びます。文学部と同様、言語の授業が多めです。 第2外国語はロシア語、中国語、朝鮮語、スペイン語、ドイツ語、フランス語の中から選択します。また、数学や統計学が必修となっています*1。
2年目の秋以降は、吹田キャンパスで学びを深めていきます。豊中キャンパスのほぼ2倍の広さで 徒歩移動が大変なので、自転車も設置してあります *2。人科棟には複数のコミュニティスペースがあり 、学習活動はもちろん、イベント等にも利用されています。

大阪大学人間科学部HPより

大阪大学人間科学部HPより
*1 第一外国語(英語)週2コマ、第2外国語の授業(『グローバル理解』含む)週2コマに加えて、選択外国語の授業が週1コマあります。ただし、入学年度によって必修単位等は変わってきます。
https://www.hus.osaka-u.ac.jp/ja/students/handbook/
*2 2014年度から、自転車シェアリングサービスが導入されています。
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2014/05/20140508_01
そもそも人間科学って何?
「人間科学とは何か」というのは、実はとても難しい問題で、人間科学部の教授でもひとりひとり答えが違います。解釈によって「人間科学」の意味するものは変わると言えます。
ここでは、私が人科の授業を通して現時点で行きついた答えを紹介します。それは、「あらゆる視点から人間について考えること」です。文学、法学、理学などの伝統的な学問や研究領域にとらわれず、広く人間について研究します。

大きく分けて、
(1) これまで学問の対象とならなかったことを拾い上げる。
(2) 異なる分野で追及されてきた知識を繋ぎ、新しいものを生み出す。
(知のキュレーター *3)
という2つの側面があると思います。
人間科学部は、「時代が突きつける新しい課題に対して、科学的方法を信頼して学際的に対応し、人間への理解に基づきながら、現実に向かう開かれた精神」を掲げています。これは、「人間や社会は変化し続けるものであり、既存の学問の中で閉じこもっていたら、現実に追いつかない。変化し続けるものが人間科学である」というメッセージだと思っています。
具体的に何を学ぶの?
人科に入ると、まず1年間かけて人間科学の概論を学びます。2年生からは「○○学系」と呼ばれる専門のコースを専攻し、2~3年生の間に全員ゼミ配属されます。
専門は、教育学系、社会学系、行動学系、共生学系から選びます。
教育学系 | 人間が一生の間に成長・発達する道筋や、それを支える教育、環境を研究します。教育社会学を研究する人が特に多い印象。 |
社会学系 | 社会の構造や機能、変化を研究します。例えば、歴史上の思想、人と人とを繋ぐコミュニケーション、統計にあらわれるデータ、よりよい生活を目指す福祉、地球上のさまざまな文化、「人間とは何か」を問う哲学など。 |
行動学系 | ヒトという種の特性を明らかにするために、行動の起源や変化、多様性などを研究します。例えば、霊長類との比較、年齢ごとの発達の研究、急激な社会変化と行動の関係性など。 |
共生学系 | さまさざまな違いを持つ人たちが互いに認め合い、対等な関係を築きながらともに生きる方法を研究します。具体的には、哲学・歴史学、ボランティア、マイノリティの社会参画など。 |
*3 「従来のたこつぼ化した『専門知』から、キュレーションによって『統合知』を生み出し、産官社学連携やパブリックセクターとの共同で『現場知』から『共創知』を作る。」(稲葉, 2019)
共生学は何のためにあるの?
生学系の内容はわかりにくいので、関心がある人のために、もう少し詳しく説明します。共生学系には多様な専門の先生がいて、教育学、社会学、行動学のどれでも研究できます。
では、何故わざわざそれらを「共生学」としてまとめるのでしょうか。1つは、視野を広く持って研究するためです。(先に触れた、『知のキュレーター』になるということですね。)先生方も、異なる専門を持つ人同士で関わり、ともに思考することを好んでいます。人間科学部の設立当時を知る先生曰く、「ごちゃごちゃしていて、昔の人間科学部らしさが残っている感じ」だそうです。
さらに、私は研究の目的を設定するためだと考えています。多くの場合、研究対象によって「○○学」と名前が付いています。しかし、共生学の場合、研究の指針・目的が学問の名前となっています。
教育学 | 研究対象が教育 |
社会学 | 研究対象が社会 |
行動学 | 研究対象が行動 |
共生学 | 研究の目的が共生 |
これによって、研究の進め方が異なってきます。普通は研究手法を決めて、研究を進めながらそのゴールを探っていきます。対して、共生学の場合「共生」というゴールはあらかじめ決めて、それを目指して研究手法を決めます。

このような特徴のため、現場を重視しながら社会を変えようとする研究が多い印象があります *4。また、共生学系における学び自体を共生の実践と捉え、学生同士やそれ以外のひと、場などを結びつける試みが盛んに行われています。
*4 哲学など、「現場」を持たない研究も行われています。
国人(神大)・総人(京大)と何が違うの?
人科に興味を持ったあなたには、「人間」という言葉の入った、他学部との違いも考えてみてほしいと思います。今回は、神戸大学の国際人間科学部、京都大学の総合人間学部と比較してみます。それぞれの学部の在学生、元・在学生に話を聞き、ホームページの情報も併せてまとめてみました。
神戸大学国際人間科学部
受験時に学科を決定するため、一年時から学部全体の科目だけでなく学科の科目も学習できる。ボランティアなどこれまで学問の対象とされにくかったものも研究対象にしている点で、人科と通じるものがある。
各学科の中では、複数の研究領域が斬新に組み合わさっている。人科がスーパーのバーゲン(学問領域にこだわらない学習を重視)だとしたら、国人はセレクトショップ(各学科ごとに、特定のものを研究するために面白い学問をあらかじめ領域関係なく集めてあるので、はまったら夢中になる)。
京都大学総合人間学部
教養部を母体に設立され、学科ごとに対象とする学問が大きく異なる。主専攻に加え副専攻を選ぶ、他学部の授業を聴講しそれを専門にすることもできるなど、学問領域が広く自由度も高い。
手持ちのカード(これまでに築いてきた学問)を一気に広げて見せて「さあ好きなようにカードを引いてタワーでもなんでも作りたまえ」と、いい意味で放任しているような学部。特定の学問領域を極めるも幅広く学習するも良しなので、学生自ら学問体系を構築することができる。
変化を恐れない「阪大らしさ」が、日本初の「人間科学部」を生んだ?!
大阪大学人間科学部は、日本で最も古い、「人間科学」と名の付く学部です。人間科学部の誕生は、阪大の特徴があってこそだと考えます。
阪大は歴史的に、ひとの生活に根差した大学となっています *5。大学は社会の一部であり、社会の変化を受けて学問の内容も変化し、学問を通して社会に貢献していくという姿勢を取ってきたのではないでしょうか。

現在の阪大からも、これまでの大学・学問の在り方にこだわらず、社会の様相を踏まえて変化していこうとする様子が汲み取れます。例えば、以下のようなものが挙げられます。
・COデザインセンター:
専門的知識を社会で活用しながら社会課題を解決するために発足した。オフィスは、豊中キャンパスのカルチェ(カフェ)の上。
・Innovators Club:
起業等に関心のある学生・若手研究者らのコミュニティ。
・Diversity & Inclusion に関する取り組み:
Diversity & Inclusion強化月間の設定(2021年7月から10月まで)など。性的マイノリティの取り組み指標「PRIDE指標2019」において、大学で唯一最高評価を受賞。
*5 阪大の全身となる大阪帝国大学は、「大阪に総合大学を」という民間の意志と寄付によって創設されました。大阪大学へ転身した時には、懐徳堂の思想や文化を継承して文系学部が設置されました。これは町人による町人のための学問所で、商売と折り合いを付けながら学んでいたと言います。大阪で生きるひとの生活に寄り添い、支える役割を担ってきたことがわかります。
*6 詳細はこちらから
まとめ~人科で得られる豊かな視点~
大阪大学人間科学部は、社会のニーズに対応して、学問の枠組みやその内容を変化させる、柔軟さを持っています。学生には、研究領域の境界線なく広い視野を持ち、そのうえで専門的な研究をする機会が用意されています。やりたいことが決まっている人にはそれを見つめ直す豊かな視点を、決まっていない人には関心ごとを探す材料とゆとりをくれる場です。関心を持った方は、ぜひ人科のことをもっと調べてみてください。そして、よろしければ、人科であなただけの「人間科学」を追求してみてください!ともに学びましょう!