2021年9月末から、人間科学部のトイレ内に、生理用品無償提供用のディスペンサーが置いてあります。
月経をめぐるウェルビーイングを考える実証実験MeW Project(ミュー・プロジェクト)として設置してあるものですが、いったいどのような実験なのでしょうか?
研究の根底にある問題意識や、実験を通じて目指す社会に迫ります。
Contents
MeWプロジェクトとは?
MeWは、Menstrual Wellbeing by/in Social Design(社会デザインによる月経をめぐるウェルビーイング)の略。
大阪大学ユネスコチェアのコンセプト「Social Design for health (健康のための社会デザイン)」をベースに立ち上げられた研究プロジェクトです。
具体的には、
1)生理用品の無償提供用のディスペンサー開発・設置
2)QRコードを利用したアンケート調査
3)月経についての勉強会を通じたディスカッション
などの実践・調査活動を含みます。
始まりは国際協力学?!
今回は、MeWプロジェクトの中心となって研究活動をされている、杉田映理先生と小塩若菜さんにお話を聞いてきました。
杉田映理先生
人間科学研究科 共生学系 国際協力学 准教授
関心事:月経をめぐるウェルビーイング 小塩若菜さん
人間科学研究科 共生学系 国際協力学 博士前期課程
関心事:月経からみた社会
小塩:
小さい時から国際協力に興味があって、大学で杉田先生のゼミを選びました。
女性のエンパワーメントに関心があったのと、自分の生理がすごく重くて、月経についてもっと知りたいなと。色々な国で調査もして、月経のそういうタブーとか文化ってめっちゃ面白いなと思って。
途上国には衛生的だったり安全なトイレへのアクセスがない、生理用品が十分でないことで生理中に学校に行くことができなかったりする。月経小屋という文化もあったりして、生理中に学校へ行きたくても行くことができない女の子もいる。なのに、ふと生理中に小屋に入って休めるのが羨ましいなって思ったんですよね。
生理中にバイト重なって行けなかったらバイト代は減るし、好きな授業勉強したのにテスト失敗しちゃったり。
日本の女性って生理用品もあるし、トイレもあるし、すごく恵まれてるようだけども、でもめちゃくちゃ体調悪いときに休めないよなって。
卒論では日本の働く女性にアンケートを取ったんですけど、シフト制だから急な休みを取ることができない、とか、男女問わず上司に言いづらい、生理だということを知られたら恥ずかしい、生理を理由に休んだら女性だからという理由で評価が下がるんじゃないかという不安があるということがわかって。
生理が問題じゃなくて、労働環境がそもそも問題。多分一番元気で健康な男性に照準が当てられてるってことに気づいて、なんでだろうって思ったら、私たちが性教育をちゃんと受けてないから。
それは、政治に問題があるってことに気がついた。
学部を卒業した後は一度働いてから、大学院に入ったんですけど。今年の4月に突然、杉田先生から生理の貧困特集のTV番組を見せられて。「こういうことやりたいんだけど一緒にやらない?」って言われて、「やります」って乗っかったのがきっかけです。
杉田:
私はもともとアフリカの水衛生のことを研究していて、トイレの重要性を言ってたんだけども、月経自体が問題っていう認識を正直はっきりとは持ってなかったです。
初めて月経の調査をしたのは2012年。
でもなんとなく途上国の問題っていう意識が、正直まだその頃はあって、途上国の女子生徒の支援や文化的背景についてプロジェクトを組んだりしていました。
女性人類学者とチームになって比較研究をしたのですが、共通性と、地域ごとの慣習の違いっていうその両方が見えてきて、研究テーマとしてすごい面白いなあって言って。
私はもともとバックグラウンドが文化人類学なので、まさに文化人類学の知見が必要な国際協力だよなっていうので、自分の中でもぴったりはまったっていうところがあったんですね。
でも、よくよく考えると日本でも問題だよなと思って。月経に関して「これを言っちゃいけない」とか「あれをやっちゃいけない」とか、あまりにも普通でなきゃいけないからこそ起きる弊害というようなのがある。
選択肢を増やして、ひとを大事にする社会へ
杉田:
生理用品を無償で配布するって言う貧困対策もあると思うんですけど、生理用品をもらいに行くところを見られたくないっていうのがあるはずだよね、というところがあって。
学校の保健室とか、避難所の体育館に生理用品が置いてあっても、取りに行けない。そういうところを考えて、トイレの中での提供の仕組み作りっていうのをしたいなと思って。
https://hacc.osaka-u.ac.jp/ja/category/stuinfo/
小塩:
私は、生理用品1個のためになんで頭を下げなくちゃいけないのかっていうのも、ちょっと意味がわからないですね。
だって自分の身体に起きてる自然現象に関して、「ください」って頭を下げるのはちょっとおかしいし、もっと大事にされたいですね。
杉田:
アンケートに書いてくれた人がいたんだけども、トイレの中での無償提供がそもそも議論にならない社会になってほしいっていう意見があって、本当そうだよなと思って。
ただ、使い捨てナプキンとか使い捨てタンポンを推奨してる訳ではないっていうことは、お伝えしたくて。
今配布しているのは、多文化共生っていう観点からタンポンと、ナプキン2種類。ナプキンは、大手メーカーの普通タイプのものと、ノンポリマー。吸水性が高くて性能がいい製品は、高吸水性ポリマーというプラスチックが入っていて、環境的にはよろしくない。生分解性であれだけの高吸水ができるものは、現段階の技術的には難しい。
使い捨て自体が悪いと言うよりも、ポリマーって言う問題はあるのかなと。だから勉強会で生理用品を並べたりして、生理用品って何なんだろうとか、他のチョイスがあるのかなって考えてもらいたいっていうところは強くあります。
チームで試行錯誤!怒涛の7か月間
4月に始めた研究は、5月に予算申請し、協力企業を探しながらディスペンサーの開発・設置まで、非常に迅速に進められました。しかしその過程は必ずしもスムーズではなかったと言います。
杉田:
避難所のことを考えると段ボール製がいいんじゃないかとか。ガチャガチャを段ボール製で組み立てられるみたいな仕組みがあって、そういうのがいいんじゃないかとか。
色々取り寄せて、プリンターのインクのカートリッジが入っていた空き箱で試作品を作ったりして、本当に試行錯誤です。 9月末の院試に間に合わせようって言って、完成まで4か月でしたね。
小塩:
私はついていくのに精一杯ですよ。
先生は行動力と推進力と、すごいんですね。私はたぶん、学部生の時にこれやろうって言われてたら、着いていけなかったと思うんですね。スケジュール的にも、気持ち的にプレッシャーもかかってるし。
今も、走りながらボロボロこぼしてるんですけど、杉田先生が走りながら全部拾いに行ってくれて、何とかやってるっていう感じですね。まだまだだなっていう気持ちも、頑張らなきゃっていう気持ちもあります。
杉田:
いやいやいや。でも、まさにチームだからできたこと。若菜さんや、会計さんとやり取りしてくださったりディスペンサーの開発にも携わった事務補佐さん、他の協力してくださる先生方も。
阪大生へのメッセージ
最後に、阪大生へのメッセージをお願いします!
杉田:
月経についての基本的な知識って言うのは、今後社会人になっても必要になってくるし、ジェンダー関係なく理解してほしいって言うのはありますね。
身体の障害があるかもしれないし、トランス男性の方もいるでしょうし、ディスペンサーは多目的トイレにも置いてあります。男子がちょっと興味あって1個持ってくとかいうのも、別にいいんじゃないと私は思うんだけども。
小塩:
エンパワーメントされるのって女性だけじゃないんですよね。
私は女性のエンパワーメントに興味があってやってるんですけど、周りにいる人たちもみんなエンパワーメントされた方がよりよい社会になると思うので。
月経云々って言うよりは、自分の好きなこととか、わくわくすることとかやってほしいなって思います。
普段考えていること、好きなことを続けた先で、研究プロジェクトが形になっていったことを強く感じました。
おふたりとも研究を楽しんでいる様子が伝わってきて、私も自分の関心追求をエンパワーメントされたような気持ちになりました!
MeWプロジェクトをもっと知りたい人へ
MeWプロジェクトについてもっと知りたい人、取り組みを応援したい人は、SNSやHPもチェックしてみてください。
人科に設置されたディスペンサーの写真をSNSにアップするなど、取り組みの共有も大歓迎とのことです!
また、大阪大学学部生・院生、および教職員を対象に、月経についての勉強会も開催されています。
開催日時:2022年1月7日(金)18:30〜20:00
テーマ:「月経教育 / 包括的性教育」
関心のある方は、リンク先から詳しい内容を見てみてください。
※画像1枚目~3枚目は、HP(https://mewproject-osaka-u.jp/)に掲載されているものです。